幸せのありか




今、俺は物凄く幸せ・・・
不自由なく、平凡な暮らしが出来て・・・
そして何より・・・
愛する家族が居るから―――・・・・
だから、俺は物凄く幸せ。




「8・・・9・・・10・・はい。チビ、落とすなよ」
「解ってる」
ざばっ、と。カイから湯船から赤ん坊を上げ渡されると、
夕鶴が持っていたバスタオルで赤ん坊を拭きながら口を開いた。

「じゃ。あとはカイ、ゆっくり入ってて良いぞ」
「ん・・・なぁ、夕鶴?」
「なんだ?」
「チビ寝かしつけたら、お前も入れば良いじゃねぇか。一緒に入ろうぜ?」
「いや。俺は後ではいるから・・・」
「・・・・ちぇ」

夕鶴の言葉にカイは少しすねたような顔をする。

「んじゃ、俺もあがろうかな・・・」
「そうか?」
「あぁ」
そう言うと、カイも風呂から上がり身体を拭う。

「じゃぁ。俺は夕海を寝かせてくるから」
「あぁ、解った」
赤ん坊を拭き終わると、衣服を着せ、
夕鶴は一足先に赤ん坊と共に脱衣所を出た。


寝室へ入り、ベビーベッドに赤ん坊を寝かせ、布団をかけてやるが、
赤ん坊がぐずりだし、夕鶴がもう一度抱き上げる。

「なんだ?ネンネしないのか?」
「ふぇ・・・ママァ・・・」
「・・・・しょうがないなぁ」
中々寝ない赤ん坊に夕鶴は子守歌を歌う。
本当の母親のように柔らかく優しい夕鶴の歌声に赤ん坊はウトウトしだし、
気付いた時には夕鶴の腕の中で眠っていた。

眠った赤ん坊をベッドに寝かせ布団をかけてやると寝室を出た。

リビングへ行くとカイがソファでくつろいでいた。
「おう、チビは眠ったか?」
「あぁ。ぐっすりだ」
「そうか」
カイの隣に夕鶴が腰掛ける。
そんな夕鶴にカイが話しかける。

「なぁ?夕鶴」
「なんだ?」
「お前、今幸せか?」
「え?」
行き成りのカイの問いに驚くが、直ぐ優しく笑むと口を開いた。

「当たり前だろ。俺は今物凄く幸せだ」
「そうか・・」
「カイは?」
「俺か?勿論。俺も同じだ。夕海が居て、なによりお前が居る・・・それだけで十分幸せだ」

そう言うと、夕鶴の左手にそっと自分の左手を重ねる。
重ねあった互いの左手の薬指には、銀色に輝く結婚指輪(ウェディングリング)がはめられていた。


この二人が、結婚してもう時期三年目になる―――・・・
そして、この二人には今8ヶ月になる息子が居る。




二年程前、二人が23歳の冬に結婚した。
勿論。男性同士の入籍など日本の法律上認められていない訳で・・・
その事もあり、二人の両親、特に夕鶴の父親は反対したが、
カイと夕鶴の必死の申し出の末、漸く互いの両親に二人の意思が伝わり、
同姓同士の入籍の許されるアメリカで式を挙げ、入籍した。

式は勿論、二人の中が全体的に公認と言う訳でもない為、
呼ばれたのは彼らの家族や親戚意外は親友である、絵里奈や飛鳥達ぐらいだった。
普通の式と比べたら少人数で行われた式は、
本当にささやかな物であったが、二人は幸せだった。
式に出席してくれた者は皆、自分達の事を理解し、祝福してくれたのだから・・・。



そして、二人が結婚して二年目の夏―――・・・・


□■□■
「え?養子?」
『えぇ、私の親戚のおばさんが孤児院で働いているんだけど、
そこで養子として引き取ってくれる人を探している子が居るんですって。
前から、赤ちゃん欲しいって夕鶴くんも言ってたみたいだし・・・無理にとは言わないけど』
絵里奈から一本の電話が入り、話しをすると、そのような話しになった。

たしかに、数ヶ月ほど前から夕鶴が子供を欲しがっていたし、
自分も子供が欲しいと思っていた。
しかし、自分達は男同士であって、子供を作る事は不可能・・・。
そんな時に、入って着たのが、絵里奈からの養子の話だった。


確かに、子供を育てる事は大変ではありそうだが、夕鶴の願いを叶えてやりたいという気持ちもあり、
勿論自分も、夕鶴と家族を作りたかった。

カイは絵里奈から孤児院の連絡先を聞き、受話器を置いた。

そして、暫くして再び受話器を取ると、教えてもらった連絡先に電話をかけ、
一週間後に約束をした。



そして、その日の当日。

「なぁ、夕鶴?」
「ん?」
「今から出かけないか?」
「え?何処に?」
「取りあえず着いて来い」
「なんだよ?急に・・・」
有無言わさず夕鶴に支度させ、自分も支度すると、車に乗り込んだ。

「なぁ。一体何処に行くんだ?」
「着いたら解る」
「?」
微笑んで言うカイに夕鶴は不思議な気持ちだった。


高速道路を通り、車に乗って二時間程して、
車はとある建物の前に止まった。

建物の近くには海があり、吹かれる潮風が心地良い所だった。
夕鶴が建物を見て口を開く。

「孤児院・・・か?でもなんで孤児院なんかに・・・?」
「此処で養子として赤ん坊を引き取ろうと思ってな」
「え!?養子・・?」
「あぁ。お前、前から、街中歩いてて子供見るたびに子供欲しそうな顔してたしな・・・」
「!」
カイの言葉に夕鶴は驚く。
まさか、気付いていたなんて思ってなかった。

「知ってた・・・のか?」
「あぁ。コレでも俺はお前と夫婦なんだし、それにお前は昔から顔に良く出る」
「・・・」
「まぁ、俺も子供は欲しかった所だし、お前は嫌か?」
カイの言葉に夕鶴は静かに首を横に振った。

「うんん。嫌じゃない・・・」
「なら、中にはいろうか?」
そう言い、夕鶴を連れて中に入る。


「すいません。先日連絡しました深波です」
玄関先で窓口にそう伝えると、担当である女性が出てきた。

「深波さんですね。担当の松崎です。お話は窺っておりますので此方へ・・・」
部屋に案内され、入ると、多くの子供が居た。

「前に言っていた子はこの子です」
松崎はベッドで寝ている赤ん坊を抱き上げると二人に見せた。
藍色の髪に濃紺の瞳の生後三ヶ月程の男の子だ。

他人の空似というものだろうか・・・?
本当に二人の子供ではないかと思う位、
カイと夕鶴に良く似ていた。


「この子、生まれて直ぐにご両親を事故で亡くしているんです。
退院したその日に事故に遭われて・・・奇跡的にこの子は無傷で搬送先の病院から此処に移されたんです」
そう言う松崎に夕鶴は問う。

「あの?」
「はい?」
「抱かせてもらって宜しいですか?」
「えぇ。どうぞ」
そっと、夕鶴は赤ん坊を受け取る。
初めて胸に抱く赤ん坊は凄く重く感じた。
しかし、子供を抱く夕鶴の表情は本当の母親のような優しい笑みを浮かべていた。

「なぁ、カイ」
「なんだ?」
「この子、俺たちの子供として育てないか?」
「え?」
「この子の本当の両親の代わりに俺たちがこの子に沢山愛情を注いでやって育ててやりたいんだ」
「夕鶴・・・」
夕鶴の言葉にカイは微笑む。

「あぁ。勿論だ」
カイの言葉に夕鶴は優しい笑顔を再び見せた。



■□■□
子供には「夕海(ゆうか)」と名付けた。
「夕鶴」から「夕」をとり、「カイ」を漢字に変換して「海」ととり、
それをくっ付けて響き良く「ゆうか」と読む。
カイの提案だった。
カイの提案に夕鶴も頷き、子供に「夕海(ゆうか)」と名付けたのだった。


夕海を引き取り、暫くは手続きなどで区役所や家庭裁判所などに数回に亘り足を運んだが、
手続きも済み、漸く落ち着く事が出来た。


「ふぇっ・・」
「わ、えっと・・・どうしたんだ?・・・おしめかな」
「うんん・・・おなかがすいたんだ・・・な、夕海」
夕鶴はいつも不思議なぐらい夕海がなく理由を理解していた。
優しい笑顔を浮かべ夕海を抱く夕鶴は母親の顔だった。


「ミルク作ってくるから夕海を見ててくれないか?」
「あぁ」
そう言い残すと夕鶴は台所へ足を運び、ミルクを作り出す。
最初は、育児の仕方が書いてある本を片手に、戸惑ったが、今は大分覚えてきた。

ミルクの上げ方、おしめの変え方など・・・
まだ、戸惑う事も稀にあるが、それでもカイも夕鶴も幸せだった。

腕の中でスヤスヤ眠る夕海は本当に可愛くて。
夕鶴の母親ぶりを見ていても。
血の繋がりだけが全てではないと言う事が良く解る。
一番大切なのは血の繋がりではなく、家族としての絆とその思いなのだと、
カイも夕鶴も夕海を育てていてそう思った。

前に夕海を連れて三人で公園に散歩に行った時、本当の親子に見られたようで、
特に夕鶴は周りに居た母親数人に話しかけられていた。
そんな状況に最初夕鶴は戸惑っていたようだが、
帰る時には夕海の親として見られている事が嬉しかったようで、機嫌が良かったのをカイは覚えている。



台所からミルクの入った哺乳瓶を持って夕鶴が戻ってきた。
夕海を抱き上げ、作ってきたミルクを飲ませる。

そんな夕鶴にカイは目を向ける。
はたから見れば、本当の母親が我が子にミルクを上げているようにしか見えないだろう。

そんなカイの視線に気付いたのか、夕鶴がカイのほうを向く。

「なんだ?」
「あ、いや・・・別に」
「?」
「だからな、お前。本当に母親みたいだな・・って、思ってさ」
カイの言葉に夕鶴は少しムスくれると言った。

「・・・コレでも一応。夕海の母親のつもりだが?」
男である自分が「母親」と名乗って良いのかは解らなかったが、
それでも、夕海の親として自分たちが夕海を育てているのは事実なのだ。

「俺だってこいつの父親だ」
夕鶴の言葉にカイは微笑みながらそう言うと、夕海の頭を優しく撫でた。




■□■□
「なぁ、カイ」
「なんだ?」
「夕海が大きくなっても、夕海は俺達を親として認めてくれるかな?」
夕鶴の言葉にカイはそっと彼の肩を抱き、口を開く。

「あぁ。勿論だ。親子と言うのは、血の繋がりだけが全てじゃない・・・お前だって解っているだろ?」
「・・・」
ゆっくりと夕鶴は頷く。

「なら、大丈夫だ。例え血が繋がっていなくても、夕海は俺達の事を親だと認めてくれるさ」
「カイ・・・」
カイの言葉に不安が解けたようで、夕鶴は再び笑顔を見せる。


「だから・・・夕海に愛情を注いで育ててやる事が一番だ。
夕海と始めてであった時にお前がそう言った様に・・・今も、そしてこの先も」
「そうだな」
夕鶴の顎に手を掛け自分の方へ向かせるとその唇にそっと自分の唇を重ねた。



どんな事が遭っても・・・・

どんなに時が流れても・・・

たとえ、血が繋がっていなくとも・・・

私たちは貴方を愛し続けるから・・・

貴方を護り続けるから・・・

今は安心して、安らかに、お眠りなさい。
                         <END>

<あとがき>

ついに・・・遂にやってしまいました・・・・。
子育てネタです。はい・・・。
実は前々から書いてみたいネタだったのですが、まさか本当に書いてしまうとは・・・
取りあえず。夕鶴は子供が出来たら良いお母さんやってくれると信じてます(笑
そして、同姓同士の入籍や養子に関するシステムについては、
良く知らないので、あやふやな所が多いです。
(養子に関しては調べてみましたが、難しい事ばかりでチンプンカンプンで。。。。

取りあえず。お付き合い有難う御座いました!(逃亡/マッハ10
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