恋愛進化論




深々と降り続けるのは真っ白な雪・・・。
そっと、触れてみれば溶けてなくなってしまう雪・・・。
この雪の様に僕の大切な人も居なくなってしまうではないだろうか・・・?
そんな不安に僕は駆られてしまう。
神様、どうか・・・
どうか、この雪の様に僕の大切な人を消さないでください―――・・・。




「飛鳥くん、今日も遅くまで悪いね。お疲れ様」
「はい。お疲れ様です」
そう言い、笑いながら店長に返事を返し、バイト先であるコンビニを後にした。
今の時刻は夜の11時ちょっと過ぎ。
普通なら高校生はとっくに帰ってなければならないが、
一人暮らしをしている飛鳥は生活費の事もあり、
元々知り合いだった店長に無理を言って勤務時間を延ばしてもらっていた。


「・・寒い」
夜中の冬の外は身に沁みるほどの寒さで、飛鳥は身振りをしながら自宅であるマンションへ足を運んだ。
今夜の寒さはいつもに増して寒い。
もしかすると雪が降るかもしれない・・・。
そんな事を考えていると、何か冷たいものが降って来たのに気付く。
それは間違えもなく雪で、飛鳥はため息をついた。
「(・・・本当に降って来た)」


実の事、飛鳥は雪が余り好きではなかった。
正しい事を言えば、冬が嫌いなのだ。
否、あの肌を焼くような位暑い夏の方が嫌いなのだが・・・
それでも、冬という季節には嫌な思い出しかない。


「(たしか、母さんが死んだ時も雪が降っていたっけ・・・)」
雪を見て、昔を思い出してしまう。

今から5年程前・・・。
飛鳥がまだ小学校6年生の時に母親を病気で喪った。
そして、その時も丁度、雪が降っていた・・・。

母親を喪ってから飛鳥は一人暮らし同然の暮らしをしていた。
飛鳥の父親は政治家をしていて、忙しいらしく、滅多に家に帰ってこない。
元々、飛鳥は父親と余り仲が良い訳でもなく、中学卒業と同時に今のマンションで一人暮らしを始めた。


一人暮らしなど、もう慣れているし、如何とも思っていない。
しかし、雪の降る日は、母親を喪った時の事を思い出してしまうのか、
凄く心細くなっている自分が居た。

だから、飛鳥は冬が嫌いなのだ。
悲しい思い出しかない冬・・・。
特に雪の降っている日なんて―――・・・・。

そんな事を思っていると、自宅であるマンションの前にたどり着く。
「!」
マンションの前で待っている人物の存在に飛鳥は気付いた。
金色の髪に緑色の瞳を持つ少年。
その少年は飛鳥を見つけると彼に近づき声を掛けた。

「よぅ、遅かったじゃねーか」
「伊集院・・・如何してこんな所に?」
驚きが隠せない。
彼、大和が何故自宅の前で、しかも、こんな時間に・・・?
状況が理解できなく唖然とする飛鳥に大和は近づくと口を開いた。

「如何して?・・・って、お前を待っていたのに決まってんだろーが」
「だから、如何して君が・・・」
「今日、雪が降るって予報があったからな・・・お前を心配になって」
「!」
大和の言葉に飛鳥は目を見張る。
前に、話したことを、覚えていてくれた・・・?
前に大和だけに話した、自分の「トラウマ」。
母親を亡くしてからと言うもの、雪の日はある意味飛鳥にとってはトラウマになっていた。
それを、大和は覚えていてくれて、心配してくれていた・・・?
それが、少し恥ずかしくて、それでも、どこか嬉しくて・・・
訳の解らない感情に飛鳥は大和から目を逸らしながら言った。

「別に・・君には関係ないことだろ?」
「それはそうだが、放っては置けない」
「・・・君って、本当変わり者だよね」
「あ?」
逸らしていた目を大和の方へ向けると、自分の巻いていたマフラーを彼に掛けてやる。

「こんなに冷たくなって・・・一体いつから待ってたんだい?」
「あ?・・・確か、9時頃だったっけな?」
「9時からっ!?2時間も此処で待ってたと言うのかい?」
「まぁ。そうなるな」
「・・・」
大和の返事に飛鳥は呆れながら小さく溜息を吐いた。
まさか、大和がそんな時間から待っていたなんて・・・。
もしも逆の立場で、自分が大和だったとしても絶対にそんな時間から待ったりしない。

「とりあえず上がりなよ。珈琲位煎れるから」
「あぁ。そうさせて貰う」
そう言い二人は飛鳥の自宅へと足を運ぶ。
飛鳥が住む所は3階の一番手前の部屋。
家の鍵を開け、大和を通す。

初めて入る飛鳥の自宅に大和は呆然とする。
外見とは裏腹にアバウトな性格を持つ飛鳥だ。
家の中は散らかってるイメージを大和は持っていたが、
実際はそんなことはなく、逆に確りと片付けられていた。

呆然としている大和に飛鳥は不思議そうに問う。

「どうしたのさ?」
「・・いや、案外お前の家が綺麗に片付けられてるからなんつーか・・・」
「・・・君、今の失礼だよ」
「あぁ・・・悪ぃ」
大和の言葉に飛鳥はフッと笑うと彼に継げる。

「その辺座っててよ。珈琲煎れてくるからさ」
「あぁ」
それだけ言い残すと飛鳥はキッチンへと足を運んだ。
薬缶で湯を沸かし、暫くするとフワッと珈琲の香りがした。
そして、直ぐに飛鳥がマグカップを二つ持って戻ってきた。

「伊集院はブラックでよかったんだっけ?」
「あぁ。構わねぇよ」
大和から返事を聞くと、大和にマグカップを手渡し、飛鳥も彼の隣に腰掛ける。
「(なんか変な気分だ・・・)」
マグカップの中の珈琲を口に含みながら飛鳥は思った。
いつもなら、この時間帯は一人なのに、今は隣に大和が居る。
それが、なんか何時もの調子を狂わせ、感覚が鈍るような気がした。
そして、何よりも外で降り続ける雪の所為もあるのだろう・・・。
隣に居る大和が突然自分の前から消えてしまう様な・・・・そんな不安が押し寄せた。

「(馬鹿だな・・・何変な事考えてるんだろう・・・)」
気にする事はない・・・そう、解っているのに、それでも不安が心の中で蠢き続ける。
今の自分の心情を大和に悟られないよう、顔を伏せていた時だった。
不意に大和が話しかけてきた。

「・・飛鳥」
「?なんだい?」
「!・・・ちょっ、伊集院?」
グイッと、手首を引っ張られたかと思えば、飛鳥は大和の腕の中に居た。
突然抱きしめられ、うろたえる飛鳥。
そんな飛鳥の耳元で囁く様に大和が云った。
「大和・・・だろ?」
それだけ言うとそのまま飛鳥に口付けた。
触れるだけのそれは直ぐ離れていった。
突然の大和からの口付けに飛鳥は暫く思考が停止したが、すぐさま口を開いた。

「いきなり何するんだよ・・・」
自分の言葉など耳を傾けず、大和は逆に抱きしめる力を強くした。
「!・・・やま・・と?」
「飛鳥・・・俺は絶対にお前の傍から離れたりはしない・・・だから、そんな顔するな」
「!」
大和の言葉に飛鳥は目を見張る。
そう、大和は知っていたのだ。
飛鳥の心の中で不安が渦巻いていた事を・・・。

彼には、隠し事など出来ない・・・。
そう思ったのと同時に、何だか、その大和の言葉が耳の中で大きく響いた。

大和の背中に自分の腕を回し、飛鳥はそっとその瞳を閉じた。
抱きしめられて感じる大和の体温。
その温もりが飛鳥の心の中にある不安を少しずつ溶かして行く様な・・・
そんな気がした。


「・・・・大和」
「何だ?」
「今夜だけ・・・頼らせてくれないか?」
恥ずかしいのか、ボソボソと小さく発せられた飛鳥の言葉。
それでも、確りと大和には届いていて・・・。
大和は口元を緩め、返事を返した。

「当たり前だろ?お前の気が済むまで傍に居てやる」
「・・・有難う、大和」
「あぁ」



5年前、母を喪ってから、心のどこかで雪の日がトラウマになっていた・・・。
舞い落ちる雪を見る度に、「又誰か大切な人を失ってしまうのではないだろうか・・・?」
そんな不安に、無意識のうちに駆られてしまうから・・・。
それでも、今は何故か・・・
何故だか、先程まで感じていた「その不安」が消えていた。

この温もりが・・・
愛しい人の温もりが、自分の心の中で渦巻く不安を取り除いていてくれたから・・・。




甘く暖かい時間がゆっくりと流れていった。
そして、二人が気付いた時には何時の間にか、降っていた雪が止み、
外を美しい銀世界へと変えていた。


                         <END>

<あとがき>

等々書いてしまいました・・・大和×飛鳥第二段です(苦笑
この話は学校行っている時、電車の中でフッと思い浮かんだネタです。
元々、飛鳥は母親が居ないとか、父親が政治家だとかそんな設定はなかったのですが、
今回の話に合わすため、飛鳥をそういう設定にしました。
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